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那覇家庭裁判所 平成元年(少)602号 決定

少年 U・K子(昭49.4.21生)

主文

1  少年に対し強制的措置をとることを許可しない。

2  少年を那覇保護観察所の保護観察に付する。

理由

(虞犯事由)

少年は、中学校入学直後ころから帰宅時間が遅くなり、そのうち家出を繰り返すようになって、素行不良の上級生、家出中の他校生、中学卒の男女数人らとともに建造物侵入、シンナー吸引、原付車を盗んで乗り回すなどの問題行動を惹起したことから、少年及び保護者は学校側の注意・指導を受け、昭和62年7月からは、沖縄県南部福祉事務所の家庭児童相談室等からも指導されるようになったが一向にきき容れず、特に昭和63年1月ころからは問題行動が深刻化し、同月14日窃取した車両を暴走させて交通事故を起したことで、沖縄県中央児童相談所の一時保護を受けることとなった。ところが少年は、保護開始後間もなく同保護所を無断で抜け出し、連れ戻されても数日後に再び無断外出をなし、その間従前と同種の問題行動を重ねたばかりでなく、教師らの指導に対する憤懣を晴すべく、不良仲間らを誘って集団で所属中学校の窓ガラスを破壊するに及んでいるものであって、保護者の正当な監督に服さず、かつ、自己の徳性を害する行為をする性癖を有し、そのまま放置すれば、その性格、環境(不良交遊が深まるにつれて行動範囲も拡大の一途を辿っているが、保護者の指導力が極めて弱いため、少年の問題行動を制止できない状況にある。)に照らし、将来毒物及び劇物取締法違反、道路交通法違反、器物損壊、窃盗等の罪を犯す虞がある。

(非行事実)

少年は、氏名不詳の女性と共謀のうえ、昭和63年12月5日午後4時20分ころ、那覇市○○×丁目×番×号輸入小物店「○○」において、同店店長A管理にかかるハンカチ他2点(時価合計850円相当)を窃取したものである。

(適用すべき法令)

虞犯事由につき 少年法3条1項3号イ、ニ

窃盗につき 刑法60条、235条

(処遇の理由)

1  本件強制的措置許可申請事件記録によれば、本件は、少年を開放施設である教護院で教護指導を行うには困難が予想されるので、教護の効果を図るため、少年に対し通算180日を限度として強制的措置をとる必要があるとして、沖縄県中央児童相談所長から少年法6条3項により送致された強制的措置許可申請事件であるが、その理由中に記載されている少年の行状や問題行動は概ね上記虞犯事由と符合するものであり、このように少年法6条3項による強制的措置許可申請事件としての送致であっても、申請の理由として記載されている事実が同法3条1項3号所定の事由にも該当している場合には、予備的に虞犯保護事件としての通常送致がなされているものと解するのが相当である。

2  少年に対する鑑別結果及び当庁調査官○○の調査結果によれば、少年は調子者で羽目をはずし易く、付和雷同的に軽卒な行動に出る傾向が強いうえ教師に対する根深い不信感が重なって校則違反、不登校、家出等を繰り返すようになり、うっ積した欲求不満の解消を自己を受容してくれる年上の不良仲間との交遊に求める過程で本件諸種の問題行動を惹起したこと、少年の両親は、少年に対する養育方針が一致しないうえ一貫性に欠け、保護者としての指導力が極めて弱いことから少年の我侭な要求を許容する結果となり、かかる劣悪な保護環境がひいては少年の非行化を助長する要因となっているなど、少年の更生を妨げる事情が存在することは否定し難いものの、反面、少年は鑑別所に収容されて従来の行動を反省し、自己の非を認めるようになったこと、家庭からの離反傾向は弱く、家族との親和も保たれていること、問題行動の多い割には非行性はそれ程進んでおらず、また、文章による表現力や計算力は比較的高く学業に関心を向ければ学校生活の中でかなり落着くことが予想されること、試験観察に付された後、シンナー吸引、喫煙を完全に断ち、いくらか曲折はあったものの、3学年に進級して高校進学の希望をもつようになり、教師に対する不信感も次第にうすらいでいること、保護者も従来の態度を深く反省し、少年が学校や家庭で安定した生活が送れるよう協力したいとの意向を示していることなど少年の自立更生の可能性を首肯させる事情も認められる(本件窃盗行為は、その場の雰囲気で衝動的になされた極めて偶発的な犯行であって、少年の非行性を示すものとは思われない。)。

3  以上の事情を総合考慮すると、少年に対し強制的措置をとる必要性はないものといわなければならないからこれを許さないこととするが、上記少年の更生を妨げる事情、とりわけ教師に対する不信感や不良仲間との交遊関係は未だ十分に解消されておらず、ややもすると、教師に対する不信感が再燃して学校不適応状態を生じ、あるいは不良仲間の誘いに乗って再非行に陥いる危険性を必ずしも否定できない状況にあるので、少年の更生をより確実なものとするためには専門家による適切な指導助言が不可欠と思料される。

よって、少年を那覇保護観察所の保護観察に付することとし、少年法24条1項1号、少年審判規則37条1項により主文のとおり決定する。

(裁判官 根間毅)

〔参考〕送致書〈省略〉

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